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土壺にはまった松井秀樹選手とイチロー選手

201089

宇佐美 保

 昨年の拙文≪松井秀喜選手MVPおめでとう、しかし……≫では次のように記述しました。

 

 松井秀喜選手、ワールドシリーズMVP獲得おめでとうございます。

6戦で6打点を一人で叩き出した大活躍は、お見事としか言いようがありません。

……

来シーズンはワールドシリーズ以上の活躍を期待します。

 

 そして、その為には、打撃フォームを一層磨き上げて下さい。

先の拙文《記録のイチロー選手と捨石の松井選手》にも指摘させて頂きましたが、松井選手は、“ライト方向に打つのが一番飛ぶ”の信念で、「左足(後ろ足)の踵に重心を移動させて、体の軸を斜め後ろに倒してスイング」しているように見えます。

 ……

 松井選手ご自身も、快打された際は、ほとんどの場合、体の軸は真っ直ぐだったように見えました。

(……数々の名投手からホームランを奪った際も、ライト方向よりもセンター方向が多かったと記憶しています)

 

 しかし、残念なことにヤンキースは彼を引き止めなかった為、ソーシア監督の請われ、期待されてエンジェルスに移籍しました。

 

 ところが残念ながら、松井秀喜選手の成績は散々です。

ソーシア監督は、松井秀喜選手に打点を期待したのに、かれは、ワールドシリーズでのホームランに味をしめ、年間、3040本のホームランを狙ったのでしょう?

(この背景には、下種の私の勘繰りですが、イチロー選手は“松井秀喜選手はクラッチヒッター(ホームランバッターではなくチャンスに打つ選手)”だと語っていました。

内心ホームランバッターとしての自負を持ち続けていた松井秀喜選手は、このイチロー選手の評価(侮蔑)を覆そうと思ったのかもしれません)

 

 その結果先の拙文の記述通り「ライト方向に打つのが一番飛ぶ”の信念で、「左足(後ろ足)の踵に重心を移動させて、体の軸を斜め後ろに倒してスイング」している」状態が今もって続いています。

 

写真を見てお分かり頂けますように、

このフォームではバットの回転軸(体の中心線)は斜めになり、
バットの回転(スイング)は当然その直角方向、
即ち、地面に対して斜め上方向になります。

 

ところが、ボールは地面に対してほぼ水平に投げ込まれてきますから、ボールとバットが正面衝突する事はありません。

(このようなスイングはボールを自分の手で一寸浮かせて外野にノックする場合です)

そして、また、ボールの中心をバットの中心軸がとらえる事が出来る可能性は、一瞬だけです。

何故なら、水平線(ボール)と斜めな線(バット)が合致するのは、その交点だけです。

そして、

多くの場合は、ボールの上っ面をこする状態になり、
ヤンキース時代も(斜めスイングの時:即ち、不調時には)
「ゴロ・キング」との悪名を浴びせられました。

 

一方、水平線(ボール)と水平線(体の軸を真っ直ぐ立ててスイングしたバット)が合致するのは、(バットが届く範囲で)その線上到るところです。

 

 ところが、写真のような斜めスイングでは、当然、ソーシア監督の期待に添うわけには行きません。

そして、

困った事に、斜めスイングによってホームランを量産して今迄の迷惑を帳消しにしようと思えば思うほど、
ライト方向に打つのが一番飛ぶとの困った信念により、
“ライトへと打球を飛ばそう”との思いから体の開きも早くなり、
アウトコースを攻められて簡単に三振の山を築いています。
たとえ、かろうじてバットに当てても、手打ち状態による凡ゴロとなります。

 

 何故、松井秀喜選手は、御自分のバッティング・フォームをビデオで研究しないのでしょうか?不思議でなりません。

(イチロー選手に憧れるソフトバンクの川崎選手は常にイチロー選手のバッティングフォームのビデオを見ているそうです)

かつてヤンキース時代、ユニフォームの裾を膝下まで上げて、絶不調夏を脱出した際の、ホームランはセンター方向でした。

(体の軸も、真っ直ぐ立っていました)

 もういい加減に「ライト方向に打つのが一番飛ぶ”の信念で、「左足(後ろ足)の踵に重心を移動させて、体の軸を斜め後ろに倒してスイング」は、捨て去って下さい。

 

 

 何しろ、今に至っても、自分のフォームの欠点を認識せず“打てるボールが来たら、それを逃さず打つ事が重要”等と、インタビューに答えているのですから、松井秀喜選手が御自身で研究しないにしても、何故、周囲の人が注意してあげないのでしょうか?

 

 

 かつては高校野球で甲子園を目指した伊集院静氏は、『週刊現代(2010.5.29号)』のコラムで次のように書かれています。

 

 日曜日だったのでテレビを点けると、エンゼルスの松井秀喜選手が日米通算1500打点を勝越打で達成した。

秀喜君はインタビューでちっとも喜ばない。チームの皆のお蔭でできたことですから。だと。そりゃそうだ。

 

 

 そして、伊集院氏は、松井秀喜選手が日本に帰って来ると、一緒に食事等する仲のようです。

ですから、伊集院氏が電話ででも松井秀喜選手に、是非とも、バッティング論でアドバイスして欲しいものです。

(本当は、中日の落合監督にアドバイス頂きたいのですが、
長嶋一茂氏(当時、巨人の選手)が、嫉妬するくらい付きっ切りで松井秀喜選手をコーチして居られたという
長嶋元監督に遠慮して無理なのでしょう)

 

 その伊集院氏は、次のようにコラムを続けておられます。

 

 これがイチローなら何を言い出すやら。

それにしてもイチローもよく踏張るナ。

この選手、いったい何なのかネ。

 

 

 流石の伊集院氏のイチロー選手の事になると舌鋒が鈍るようです。

本来なら「秀喜君はインタビューでちっとも喜ばない。チームの皆のお蔭でできたことですから。だと。そりゃそうだ。

これがイチローなら、“自分の記録は自分が成し遂げたことで、チームの誰からも世話になっていない”と言うかもしれない」と書くところでしょうが。

 

 

 勿論、日本のインターネットの記述も同様なのでしょう。

イチローとマリナーズ、10年目の「異常事態」。

で、次のような記述を見ました。

 

 

10年連続200安打達成を目指すイチロー選手を取り巻く環境が、ここに来て最悪な状態に陥っている。
 7月の月間打率(.246)がメジャー10年目で最低だったのだ。
 ……
フィギンズとワカマツ監督の衝突が象徴するチーム状況。

 その一方でイチローは、置かれているマリナーズのチーム状態に対して悲嘆にくれてしまっているのではないかとも思う。それくらい、チームは惨憺たる有様だといわざるを得ないのだ。
 723日のレッドソックス戦で起きた事件が、象徴的な出来事だった。
 5回表に相手打者が放った左翼線二塁打の送球カバーを二塁手のチョーン・フィギンズが怠たり三塁まで打者を進ませてしまった。イニング終了後ベンチに戻ったフィギンズにワカマツ監督が注意しようとしたところ激しい口論となり、掴み掛かろうとする両者に選手たちが割ってはいるという修羅場を演じてしまったのだ。……
……事件翌日のフィギンズの言動はさらに事態を悪化させていた。

 監督、GMと話し合ったものの「自分にとっては勝つことがすべて。どんな状況であろうと自分が毎試合戦い続けることを止められる人間は、このクラブハウスに誰もいない」と、とりつく島もない態度に終始したのだ。
……さらにチーム事情などお構いなしに、記録達成が近づくにつれてイチローのためだけに日本人メディアの数が増えていくという別の事情もある。消化試合と化したシーズン終盤に、そんな“大騒ぎ”を見守る他の選手の心情を考えると……チーム内でかつてのようなイチロー・バッシングが起こらないかと心配になる。精神安定剤のような存在だったグリフィーも去った中、チーム内で起こる様々な重圧も、たった1人で処理していかねばならないのだ。
 イチローにとって相当過酷な残り2カ月になりそうだ。

 

 

 私でしたら、

フィギンズ選手は「自分にとっては勝つことがすべて」を念頭にプレーしたいのに
「チームの勝つ事よりも、自分の安打数を優先するイチロー選手の存在」が気になって、プレーに専念できず凡プレーをしてしまった。

この事態を招いた原因は「ワカマツ監督」の采配にある。

と書くでしょう。

 

 

 ところが、大橋巨泉氏は、毎週『週刊現代』のコラム「今週の遺言」に於いて、炯眼ぶりを発揮されておられるのに、イチロー選手に対しては、その炯眼に濁りが生じるようです。

 

 そこで、大橋氏の『週刊現代(2010.8.14号)』のイチロー選手に関する記述(文末(補足)にその部分を転載させて頂きます)を批判させて頂きます。

 

 先ずは、先のインターネット記事と同様な件です。

 

今春最大の失敗は、32億円も投じてエンジェルスから取った、ショーン・フィギンス二塁手である。

 「イチローは2人要らない。必要なのは4番だ」と書いたが、目を覆うばかりの惨状(僅か0229、ホームラン・ゼロ)である。5回表、レッドソックスのキヤメロンが左翼線にヒットを打ち、二塁に達した。フィギンスはぼんやり立っていて中継ボールは一塁へ、キヤメロンは三塁に達した。ワカマツ監督は即座に控えのウィルソンと交代させた。フィギンスは明らかに不満で、ペンチで監督と怒鳴り合ったらしい。ダメなチームを象徴する事件である。

何回も書いて来たが、マリナーズの諸悪の根源はGM(総支配人)である

 

 

 大橋氏は、「イチローは2人要らない。必要なのは4番だ」の御見解ですが、

私も(フィギンス二塁手も、マリナーズの選手たちも)含めて多くの方々は、
「フィギンスを、1番にして、イチローを3番、或いは4番に据えろ!」
更には、「守りで重要なのはセンターラインである(捕手、投手、二遊間、センター)である
イチローをセンターにしろ
」と思っていると存じます。

 

 ところが下種の私の勘繰りですが、

「打順では、200本安打の為の1番、
守備ではレーザービームを披露しやすいライトに固執するイチロー選手」を、
ワカマツ監督は制御できないのです。

 

 更に、先のインターネットには、次の記述もあります。

 

 シーズン途中で引退してしまったケン・グリフィーもワカマツの起用法に不満を抱いていたとされるが、長年強豪エンゼルスでプレーしてきたフィギンズの首脳陣批判とも受け取れるこの発言で、マリナーズのチーム内に入った深い溝を窺い知ることができるだろう。

 

 一方、

フィギンズ選手が活躍していたエンジェルスでは、
「ホームラン・ハンター」の名でホームラン性の打球も好捕する華麗な守備でも有名な強打者ハンター選手を
センターから、不慣れな守備のライトに移し、俊足による広範囲な守備を期待し打率1割台のボーホス選手をセンターに置きました。

 

 ですから、大橋氏の「マリナーズの諸悪の根源はGM(総文配人)である」は

マリナーズの諸悪の根源は、イチローであり、
又、彼を制御できないワカマツ監督(そして、イチローの人気だけで商売するオーナー?)」

と訂正されて然るべきです。

 

 大橋氏は「(他球団から期待された選手は)マリナーズに来ると不良債権化する。

もしかするとこのチームは呪われているのかも知れない

更に、「それらの選手が他球団へ移ると活躍する」旨を書かれており、その責任も又、「マリナーズの諸悪の根源はGM(総支配人)である」として居るようです。

 

 その例として、次のように書かれています。

 

 ボクはチームに我慢が足りないのだと想う。それを感じたのは‘03年限りで当時28歳の遊撃手カルロス・ギ−エンを出した時だ。たしかに荒けずりではあったが、もう少し我慢すればイチローと無敵の12番コンビになると読んでいた。その後タイガースでは、毎年のように3割前後を打っている。

 

 

 この「遊撃手カルロス・ギ−エン」に関して、先の拙文≪イチロー選手は凄いけど松井選手はより凄い(10月7日改)≫では次のように記述しました。

 

シーズン半ば迄、マリナーズで勝ち星がさっぱり挙がらなかったガルシア投手は、ホワイトソックスにトレードへ出されて、
最終的には今期の防御率は0.381と、リーグ第7位の好成績(1311負)を収めました。

 

また、 

 シーズン前に、タイガースへトレードに出された、ギーエン内野手は、
ア・リーグの打撃成績では、打率:0.318と第6位(その上、得点打点共に、97)の好成績を上げています。

 

ギーエン選手は、ガルシア投手がトレードに出される際、「良かったね……」との電話を掛けたとの記事?(テレビ解説者の話?)を以前見た?(聞いた?)ことがあります。

マリナーズというチームが、何処か、おかしいのではありませんか?

 

 

 炯眼の大橋巨泉氏も、本当にイチロー選手の事となると、目が霞んでしまわれるようです。

 

 

(補足)

 

『週刊現代(2010.8.14号)』「今週の遺言」第87号“マリナーズの惨状を見て思った。イチローは一体何が欲しいのだろう?”から、イチロー選手に関する部分の抜粋。

 

……日本を出る時ボクはこのコラムにマリナーズの事を書いた。投手にばかり金をかけてどうする。打力を上げないと、今シーズンも危ないと書いたが、その通りになりそうだ。

 ただ今年のア・リーグ西地区はレベルが低いので、7月までに大砲を入れればチャンスもあろうというのが望みだったが、それも空しい願いだった。逆に大金を投じたエースのタリフ・リーを先日ライバルのテキサスに出してしまい、早くも今季は諦めの様相が濃くなつている。あの時も書いたが、今春最大の失敗は、32億円も投じてエンジェルスから取った、ショーン・フィギンス二塁手である。

 「イチローは2人要らない。必要なのは4番だ」と書いたが、目を覆うばかりの惨状(僅か0229、ホームラン・ゼロ)である。5回表、レッドソックスのキヤメロンが左翼線にヒットを打ち、二塁に達した。フィギンスはぼんやり立っていて中継ボールは一塁へ、キヤメロンは三塁に達した。ワカマツ監督は即座に控えのウィルソンと交代させた。フィギンスは明らかに不満で、ペンチで監督と怒鳴り合ったらしい。ダメなチームを象徴する事件である。

何回も書いて来たが、マリナーズの諸悪の根源はGM(総支配人)である

GMパット・ギリックが去って以来、セル・バヴューシ、現ジャック・ズレンシックと無能なGMがチームをダメにしている。まだ十分使える選手を出し、前年の記録に目がくらんで、高額な″不良債権″選手を買いこむ。前者の代表は」今年も47歳でフィリーズで9勝しているジェイミー・モイヤーだ。たしかに出した時はすでに43歳だったが、あの手の軟投型は年齢と関係ない(日本にも若林とか浜崎とか50歳近くまで投げた人が居た)。あれからモイヤーは毎年フタケタ勝っている。フレディー・ガルシアも、ジョエル・ピニュロも、ライアン・フラックリンも、皆他チームで活躍している。そして取って来たペダードやバティスタ、シルヴアなどは、マリナーズに来ると不良債権化する。

もしかするとこのチームは呪われているのかも知れない。そのカルロス・シルヴァが、安い値で買われたシカゴ・カブスでは絶好調で、104負とチーム・トップの成績を上げている。打者の方でも、毎年26分くらいでホームランも25本くらいだったエイドリアン・ベルトレが、去年一杯で出され、ボストンに移った。途端に今年は現在333厘でチーム・トップ、ホームランも16本だから30本は行きそうだ。ボクはチームに我慢が足りないのだと想う。それを感じたのは‘03年限りで当時28歳の遊撃手カルロス・ギ−エンを出した時だ。たしかに荒けずりではあったが、もう少し我慢すればイチローと無敵の12番コンビになると読んでいた。その後タイガースでは、毎年のように3割前後を打っている。

 近年でも、将来の4番打者といわれて来た二人の若手を、簡単に諦めてしまった。今インディアンスで、打率、打点で球団一、本塁打も13本のシン・スー・チエー(韓国人)、オリオールズでホームラン15本、42打点のアダム・ジョーンズがそれだ。今フタケタの本塁打を打っている選手のいないチームなのに、この代りに取ったペダードは未だに故障者リストに居る。

 イチローは相変らずクールに名人芸を見せている。あの精進ぶりから見て、おそらく40歳までは活躍できるだろうが、それもあと4年だ。MVPをはじめ、ほとんど全てのタイトルを取り、残るはワールド・シリーズの指輪だろう。

しかし今のGM(ひいては企業がオーナーのチーム)では、その夢が叶う可能性は低い。出るなら今だが、行き先はやはりヤンキースかレッドソックス、お金を持っていて1番打者が欲しそうだ。

 

 

 

(追記:810日)

 

 松井秀喜選手への不安に関しては、4月時点でも書きたかった位でしたが、『共同通信 201089日』の次のニュースを見る羽目になってしまいました。

 

……松井秀喜外野手は8日のタイガース戦の先発メンバーから外れた。この日の相手先発は右投手のポーセロで、松井秀が右投手を相手に先発から外れたのは、ナ・リーグの本拠地で行われた交流戦で指名打者(DH)制がなかった試合を除き、ア・リーグの公式戦では今季初めて

 

松井秀喜選手が、監督から求められているのは、ホームランではなく打点である事を思い出し、ボールを強く叩くように心掛ければ、スイングの際の体の軸も垂直になり、かつての夏や、昨年のワールドシリーズ同様の活躍も夢ではない筈です。

 

一方、イチロー選手に関しては、昨日のテレビニュースで映ったマリナーズの試合後の風景では、イチロー選手は、かつてケン・グリフィーJrに対してのみ見せた満面の笑顔をリナーズ・ナインとハイタッチする際に見せていたので、不思議に感じました。

そして、今朝(10日)ワカマツ監督が解任されたとのニュースを見ました。

 

 ですから、イチロー選手の打順に関しては、今シーズンまで1番で、来シーズン(或いは200安打達成時点以降)は、1番に固執しないとの約束が出来たのかな?と思いました。

そうだったら、マリナーズのテレビ中継も私には楽しみになります。

  

 

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